2016/05/28

技術を言葉に

木曜日と金曜日に合宿があった。しばしオフィスから離れて、経営課題と解決策、次なるアプローチを考えるためのミーティングをするためにである。こういった合宿にいくのは久しぶりで1年半ぶりほどであった。当時は http://suzuken.hatenablog.jp/entry/2014/12/18/221610 に書いてあったような一年で、マネージャとエンジニアを兼任していた。今はエンジニア業だけに専念しているのだけれども、久々に話にきたらということで呼ばれていった。結果的には色々発見があってよかった。

議論した内容はさることながら、テクノロジーの会社として、経営判断に技術者が関わる必要性というものをじっくりと考えた。広告の会社として、何をクライアントに提案し、何をプロダクトにしていくのか。そして何を課題とし、どういう手段で課題を解決するのか。そうしたことを1つずつ考えていくということをやった二日間であった。いつもはある程度範囲と狙いを絞ってものづくりをしているので、そういったことを考えていないわけではないが、何をするかを決めるタイミングというのはものを作るときに最も気を使わなければならない時間だ。作ったものが間違っていれば、どんなに努力しても事業としてよくならない。考える時間があればいいほどいいかというとそういうわけではない。常に頭の何処かでいろんなアプローチを考えていて、いざ会議をするときにはだいたいどんなケースについても答えが自分の頭のなかにはある、ということが多い。

チームや事業の領域が広がって感じることがある。それは上のやりかたがカバーしきれないケースが多くある、ということだ。経営陣は自社の課題に対するアプローチ、それは外的な課題と内的な課題を含めて、なぜそのようにするのか、ということを知らなければならない。そして一つ一つの方法がどのようにそれを実行しているのかを知らなければならない。しかしこれはだんだん難しくなる。事業やシステムが1つ増えると線形に複雑さが増すのではない。組み合わせが増えるのである。手段が増えた、ではどのように使うか?というところの難易度があがっていくのである。そこで最大限効果を出す方法は何かというのを考えた時に、普段から考えていなければ最も良さそうなアプローチを出すことができなくなってしまう。チームや事業を小さくしていくことはマネジメントのやりやすさもあるが、大目標や向かっていく方向を組織に紐付けることでその中での考えの方向性を固定するという側面もある。組み合わせをいつまでも模索していても事業もプロダクトづくりも前に進まないのである。そういう組織としての力学も合わせて、事業的なアプローチというのは考えなければならないのだということを一年半ぶりにまた身を持って感じたのだった。

エンジニアとして組織をみるとき、ここ数年で見方が変わった部分がある。それはプロダクトの分割だ。マイクロサービス という考え方が2年ほど前に出てきた。これはソフトウェア設計だけの話に取られがちなのだが、エンジニア組織の分割とチーム作り、そしてプロダクトづくりの一つのあり方として考察しなければならないものだ(ちゃんと原文を読むこと)。個人的にはAPIをプロダクトの中で分割していってサービス指向のアーキテクチャに変えていく云々、というのはまあ必要なところでやればいいと思っている。それだけではなくて、「ここのAPIを、別のサービスにも提供できるようになった時、どのような事業の可能性があるか?」ということを考えられるようになることが求められているのではないかと思う。 今回の合宿でも「それ、今あるこの仕組みとこの仕組みを組み合わせればできますよ」という場面が多々あって、ただしこれは別サービスの機能を組み合わせないと実現できないので最初は全部システム化しないで検証していくのがいいですね、という話をその場でした。事前にそこにある機能が将来にわたって、別ドメインのシステムにおいてでも同様に使えるであろう設計になっているといい。ただしこれには当然難しさがある。「この用途で使うからこういう機能がほしい」といわれたエンジニアには、その範囲以外で、あるいはそのちょっと拡張した用途以外で使うことを見込むことは難しい。こうした問題は事業とセットでプロダクトをみるエンジニアだと起きづらいが、組織全員がこうした取り組み方をするのはある程度の規模になるとやはり難しくなる。そうするとこのプロダクトと事業の接続をするマネージャがこの仕事をしなければならない。これもまた大変な仕事である。

エンジニアが事業のことを考察するときに何を期待されているか。それは技術的な知識・背景をベースに、アイデアを出せることが一番の価値だと考えている。これはテクノロジー企業とそうではない企業とで全く異なるかもしれない。テクノロジー企業においては、やはりそれが競争力の源泉になる。技術だけによっていては売れるものはできない、という言い分もある。これはこれで正しい。文脈を無視した技術は仕事ではなく、ただの趣味といわれても仕方がない。事業を制約に入れてなお、技術的なアプローチを適切に考察できることの面白さというのは、働いてみないとわからないものなのかもしれない。少なくとも、私はそれがすごく面白いと思っている。