短いおとぎ話でありながら、政治的革命と蜂起、事実の歪曲と破滅、沈黙と貧困など、多くの要素が散りばめられているすごい本だった。決してそういう概念について説明することなく、隠喩においてメッセージを伝える。小説ならではの表現を味わえるし、大いにこれらのテーマについて考える時間を与えてくれる一冊だ。
話はシンプルだ。農場の中の動物が蜂起し、農場のオーナーを追い出し、動物自ら農場を運営する。鞭をもったオーナーもいなくなり、自由を謳歌する。しかし新しくリーダーについたブタたちがやがて富を搾取するようになる・・。説明すると3行で終わってしまうのだが、この世界に入り込んで読むと鮮明に想像を掻き立てられる。ただセリフを繰り返すだけの羊、飼いならされる犬、賢いが沈黙するロバ。もともと妥当人間だったのが、人間を追い出してしまってからはそのフレーズも虚しく響く。隠される事実。搾取される収穫物。労働は減らない。徐々に書き換えられる規律。声をあげない動物たちはやがて破滅に向かう。
そしてこの小説にもやはり時代性がある。出版は1945年、世界大戦の最中。社会主義の批判のおとぎ話としてイギリスで出版されようとしていた。しかしながら検閲の影響でなかなか出版できない。私の読んだハヤカワ文庫山形浩生訳では本文末にオーウェル本人の「動物農場」序文案: 報道の自由がある。これがまた時代的背景を説明表している。出版の断れれた背景なども書かれていて実に興味深い。
去年ベルリンやクラクフに訪れたときに切実に感じた強制収容所、大量追放、そして検閲といった事柄について。その事実は文章でみても、本当にそういうことがあったのかどうかすら危ういほど信じ難いものに思える。それが当時も離れている場所の人々がそうだったのだとしたら、生活の自由と穏やかさにかけてこういう物語が受け皿になって伝搬していったのだろうというのは想像に難くない。
訳者あとがきが本書の考察にあたって自分との会話を深めてくれた。
ここでのオーウェルの批判は、独裁者や支配階層たちだけではなく、本当に不当な仕打ちをうけてもそれに甘んじる動物たちのほうでもある。
(p. 205 訳者あとがきより)この視点は読後にあとがきを読んではじめて持った。「すべての動物は平等である。だが一部の動物は他よりももっと平等である。」これを避けるにはどうしたらよいか。どういう行動をすべきか。権力そのものだけでなく、権力を生む人々の構造そのものに対する批判でもある。「動物農場」の文章は今も生きている。