2011/11/25

リベルテ・マンドリン・オーケストラ第8回演奏会を終えて

今年最も時間を費やした演奏会の一つ、リベルテ・マンドリン・オーケストラの本番が昨日終了しました。ご来場いただいたみなさま、どうもありがとうございました。そして今回の演奏会に編曲・作曲・指揮・演奏・運営に携わってくださった方々にまずは御礼したい次第です。重ね重ね、どうもありがとうございました。

今回のリベルテの演奏会は、本当に出てよかったなぁと思えるものでした。終わってみて今感じるのは、この一週間はずっと演奏会のことを頭のどこかで考えていて、他のことになかなか意識が回っていなかったということです。僕の中で音楽が生活の中に占める割合がどこかうまく調整できていなくて、没頭することができない時期がありました。今回の演奏会は、完全に集中した状態で迎えることが出来ました。

振り返りを兼ねて、一曲一曲について個人的な反省を書いておきたいと思います。

Debussy/橋爪皓佐 「スコットランド風行進曲」


橋爪さんに編曲していただいたドビュッシーの「スコットランド風行進曲」。始曲にして、もっともギターの音数が多い曲だったかもしれません。橋爪さん自身がギタリストということもあって、ギターパートの演奏についてのアドバイスをうけることができました。マンドリンオーケストラの中で、ギターは左手での音色の変化をつけやすい楽器です。特にビブラートについての指示をいただきました。音を伸ばすときには最初はゆっくりと徐々に速く左手でビブラードをかけるようにするということ、そして、ソロのときと同様にビブラートをもっと強めにかけてよいというアドバイスをいただきました。ビブラートの速度の変化については今回うまく付けられなかったので、次回は慣れるようにしたいです。それによって、例えば中間のCalme Meno tempoの部分についてはもっと叙情的な演奏ができたように思います。

Faure/橋爪皓佐 「エレジー」 ※チェロ独奏:丹羽あいり


ヴィオロンチェロの丹羽さんのコンチェルトでした。編曲はスコットランド風行進曲と同じく、橋爪さんです。この曲を弾いているときは、とにかくチェロの音に聴きいってしまいました。しかしなかなかチェロとの拍感がうまく測れず、もっとアンサンブルすることができたなぁと思っています(すみません…)。マンドリン系の楽器だとトレモロの揺れで拍感がつかめるのですが、擦弦楽器の場合にはビブラートを頼りに弾こうと試みたものの、うまく合わせることができませんでした。エレジーの重さや哀愁といったものを出すのにも、課題が残りました。アンサンブルに関してはもう少しでコツが掴めそうなので、次またこういう形で演奏できる機会があれば嬉しいです。

壺井一歩 「抜忍アスタリスク」 ※マンドリン独奏:望月豪


壺井一歩さん作曲の抜忍アスタリスクが第1部の最後の曲でした。コンサートマスターの望月さんによるコンチェルトです。この曲を初めて聞いたのは去年の大阪国際マンドリンフェスティバルでした。その時の印象は不思議な空間のある魔性的な曲だなぁと感じたのですが、今回演奏してみてさらにその感覚を深めました。中間の長いカデンツァを終えた後のppの瞬間に、音が時間をまるで止めるかのように、何の音もない音楽が存在していて、その後にすっとその空間に溶けこむように音を出し始めたときは、本当に演奏を楽しんでいました。

実は演奏会前日に大好きなギタリストの一人であるイョラン・セルシェルさんのコンサートに行ってきました。その演奏会のキャッチフレーズが「時は止まって−限りない静けさと沈黙へ」でした。このキャッチフレーズはダウランドのある一曲から取ったものだそうで、コンサートでは音の余韻を意識した、スローな音楽を中心に演奏されていました。そのアンコールの最後に演奏されたある一曲の終わりに、演奏会を締めくくる最後の余韻がありました。11弦ギターの響きが消えて行く中に、時間が解き放たれたように、あるいは止まるように、素晴らしい時間が過ぎて行きました。なんだかその感覚が、翌日の演奏会本番の舞台上で同じように蘇ったのです。素晴らしい瞬間でした。

Kagel 「Musi」


Kagel作曲のMusi。Kagelは現代音楽の作曲家として有名な方で、MusiはKagelの作曲した唯一のマンドリン合奏のための曲です。この曲は本当に演奏するのが難しかったです。初めて合奏で音出ししたときは、どんな曲なのかまったくわからなかった程です。音の数もリズムも多くて、演奏するのがやっとだったというのが実際のところです…。しかし、練習をしていく中で、だんだん楽しくなっていったのもまたこの曲でした。冒頭から持続している8分のリズムが形を変えながら跳ねていくようでした。とある日の練習後の飲み会では、この曲が一体何を表しているのだろう、どんなイメージで作曲されたんだろうなどという話で盛り上がりました。結局のところ何だったのかは演奏者自身もわからないのですが、ある側面としてきっとこの日常にある音の抽象的な表現の集まりというものが表現されているのかもしれません。例えば机を平手打ちした時の音や、何かに擦れる音や…。突然fffのところである種の作為的な意志があって、もしかしてそれは人間なのかもしれません。しかし、やはり答えはわかりません。

Ravel/鷹羽弘晃 「クープランの墓」


今回の終曲です。編曲は鷹羽先生でした。ラヴェルのもつピアノからのイメージを個人的には大事にしようと思っていて、編曲の中にもそんなエッセンスを感じました。音の粒感・広がり・透明感といったものを表現するのに、マンドリンオーケストラというのはきっと面白い方法がまだまだたくさんあるのではないかと思います。最後の土日で急激に良くなったのはこのクープランの墓でした。これがもっと準備期間があったら、もっと違う形の演奏になっていたかもしれません。それでもクープランの墓を演奏できたことは良かったなぁと思っています。フーガでは良い瞬間がありましたし、トッカータではこの曲の面白さを感じることができました。ピアニストがピアノを弾く一瞬間前に描いているイメージを、より詳しく書いたような印象をトッカータからは受けました。しかし、終曲ということもあってか、何度か周りも僕も力みが多い場面があり、音ミスも聴こえる範囲であったように思います。きっとテンポに関してももっと魅力的なところまでいけたのではないかと思います。それでも、なんとかこうして本番で演奏することができて、僕は純粋に嬉しく思っています。

音楽的には何より、鷹羽先生との練習から学ぶことがたくさんありました。練習の進捗がいつもより遅くなってしまったこともあり、直前の土日で一気に良くなっていたというのが実際の所ではありますが、その分直前2回分の練習は本当に濃いものでした。内心多くの演奏者は今回演奏会で演奏するのに練習が間に合うのだろうかと不安でした。もっと早くから集中して取り組んでいればもっと充実した内容になったであろうということも否定できないのですが、今回の本番については演奏していて気持ちのいい瞬間がいくつもあり、弾いていて楽しかったです。

また来年度も意欲的に取り組んでいきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。そして来年は是非、今年ご来場いただけなかった方々にも聴きに来ていただきたいです。長くなりましたが、どうもありがとうございました。


参考


今回の演奏会詳細は以下のとおりです。アンコールはドビュッシー作曲「小組曲」よりバレエでした。
The 8th Concert
2011.11.23(水祝) 開場 13:30/開演 14:00
トッパンホール (飯田橋駅)
一般 2000円 / 学生 1000円 ※当日チャージ制(当日現地精算・予約不要)
客演指揮:鷹羽弘晃

     演奏曲目
Debussy/橋爪皓佐 「スコットランド風行進曲」
Faure/橋爪皓佐 「エレジー」 ※チェロ独奏:丹羽あいり
壺井一歩 「抜忍アスタリスク」 ※マンドリン独奏:望月豪
Kagel 「Musi」
Ravel/鷹羽弘晃 「クープランの墓」
(アンコール)
Debussy 「小組曲」よりバレエ







ギターの時間で練習風景を取材していただいた時の記事のリンクも掲載しておきます。