連日35度を超える猛暑のなか、8月11日に演奏会を行いました。第1回演奏会ということもあって初対面のメンバーも多く集まった団体となりましたが、無事本番を終えることが出来て今はほっとしています。また、ご来場いただいた皆様、どうもありがとうございました。せっかくなので、本番の録音を聴きつつ、半年に及んだ活動を振り返りたいと思います。
今回の演奏会は曲に恵まれました。「弦楽のための三楽章」を始曲として選びました。アンサンブルとしての息遣いもさることながら、メロディーの多様さ、リズムの力強さや音形を楽しむことが出来ました。みんな比較的すぐに曲に馴染んで弾くことができており、早い段階でアンサンブルを作っていくことに注力しました。この曲を最初に合わせた時には、メンバーに恵まれたアンサンブルになったなあと感じました。
桑原さんに作曲していただいた「みづかげ三章」は思い出深い曲となりました。最初スコアを見た時には、この曲がどんな世界を作っていくかを描くことは難しいものでした。Eの音を中心に揺らぎと空間を点でつなげていく譜面を見ていて、これはなかなかアンサンブルが大変だろうという印象を受けました。桑原さんによるプログラムノートにも書かれていますが(ぜひ読んでみてください)、非常に細かくパートがわけられていました。オケとしてなんとかアンサンブルができたと実感が湧いてきたのは本番の一週間前でした。団員と話していてもみんな苦労していた様子で、必死に譜面を追っていました。僕自身もソロで入るところが多く、集中力を常に高い状態に保つことが強いられました。よく練習後に桑原さんに聴いた、マンドリンオーケストラに今までになかったものを創りあげようとするプロセスはとても興味深いものでした。新しいものを創造することの負担と、そのためのエネルギーというのは大変なものなのだと感じたのでした。音楽は聴くべき場所があって、その場所で聴くべきだと私も思うようになりました。曲に関して文章で表現できるわけもなく、ただただ今回の演奏がティアラこうとうで、あるべき音楽として客席に届いたことを切に願うばかりです。今こうして録音を聴いていると、空間が捻じ曲げられ、重力が違う方向に傾いていってどこか遠くに吸い寄せられて行ってしまうような、そんな時間のうねりがたくさん発生しています。演奏者でなければ客席で聴いてみたかったものです。
終曲のシェヘラザードではいくつもの挑戦がありました。今回はマンドリンオーケストラでは珍しく金管楽器も取り入れて、管パートは原曲に近い形での編成での演奏となりました。このスケールの大きな曲をこうして弾くことができるというのは嬉しいことです。もうこれについては碇山さんの指揮が頼りでした。大学の頃はよく管と演奏する機会もありましたが、一度大きな編成から離れると耳を大きく開かなければなりません。シェヘラザードには、みづかげ三章とはまた違う、言うなれば物理的なうねりの、波の表現が常にあります。マンドリンで波の流れをつくるのはなかなか癖がついてしまって難しいものです。また、管の旋律についてマンドロンチェロで波を表現する部分などは、うねりの大きさやスピードを、響きの中でうまく噛み合わさなければなりません。これは曲を選んだ時から難しいところだろうと感じていました。また3楽章のように3拍子系に滑らかな歌いまわしを求められるような楽章では、通常のオーケストラとは違う合わせ方が必要でした。各パートのソリストは曲のなかで技巧的にも難しいものを求められるところが多々あります。コンミスのソロは練習を演奏を含め、本番が最も良いものでした。彼女が今の限界まで挑戦した、渾身のソロだったと思います。
個人的にはソロについてもいくつかの課題を感じています。一つのソロについてももっと音の響かせ方を学ばなければなりませんでした。また、旋律の中にあるいくつものエッセンスを感じさせながら、バランスよくあくまでも一つの旋律として聴かせる必要がありました。大きな曲ですし、楽章の中の旋律に明確なストーリーがあります。これを引き継ぐだけではなくて、世界観を作る必要がありました。レッスンでよく尾尻さんに指摘される、譜面の中にある音の読み取りについて無意識にに行うようになりました。あとは結果としての音として、音楽を作るというところに演奏者としてどこまで妥協せずにできるか。また、それを如何に毎回のテイクで表現するか。集中力を保つか。そういう部分がやはりプロの奏者と比べて雲泥の差がある…。そんなことをより強く感じました。
こうして終わってみると、演奏会というのは本当にあっという間でした。2月から始まった練習ですが、2次関数のように密度が濃くなって行きました。思えば、パートトップを引き受けたのは、まだ去年の冬のことでした。7月の合宿からようやく色々なものが見えてきたのかもしれません。リベルテともプレソとも違うアンサンブルとしての音楽が、結果として確かに残りました。指揮をしていただいた碇山さんや曲を提供していただいた桑原さんから、音楽について様々なことを学び、感じ取ることが出来ました。ギターパートのメンバーは難しい曲に向き合いながらも、なんとか本番まで頑張ってくれました。第一回の演奏会という大変な運営を頑張ったメンバーにはとても感謝しています。そしてご来場してくださった皆様、改めてどうもありがとうございました。また一つ、良い思い出ができました。